himiko
ヒミコの娘
  • わたしたちはひとつのことを見るときに、同時に多数のことを見ている。例えば作品を見ているが、窓を見ている。 窓の外の街を見ている。街の歴史を見ている。そして見ているものの、わからないものがその多くを占める。このギャラリーはかつての青線であり、その建物を改修して作られた空間である。現行の展示空間は白と黒に塗られた小部屋にしつらえてあるが、 収納の壁と床はかつてのままに残っている。かつて青線であったこの場所で、わたしは女について考えてしまう。 女について考えるとき、どうしてもヒミコのことを考えてしまう。かつての女王ヒミコのことを考えてしまう。 ヒミコがどういう女だったか、どのように彼女は彼女の職業を全うしたのか、あるいはしなかったのか、不幸だったのか、 何を見ていたのか、この川や水や日没、鏡や貝がらなどに。この展示では、ヒミコにまつわるイメージを、テキストや書籍も含めて断片的にならべてみせることで、 わからないものをわからないものとして一度提示する。また、前述の収納の壁と床という、かつての場所を展示空間として見えるようにした。今とかつてが同時に見えるこの場所で、かつての女王ヒミコをわからないものとして見るなら、同時に、 女を(かつてこの場所で彼女の職業を全うした、あるいはしなかった女たちを)見ることができるかもしれない。わからないものとして。見ることは難しい。多数のことを見ながらにしてひとつのことが見られるように、わからないものをわかるようにするのではなく、わからないものを見るための通路になればよいと思ってわたしはこの展示を作った。
  • 渡邊聖子